カプリコン・1 Capricorn One
中学の時の美術教師は、東京ムービーでアニメーターをやっていた人だった。再放送の「ルパン三世」などを見ると、確かにその教師の名前が出ていた。
ある日、彼はゴッホについて語り始めた。ゴッホの人生をドラマチックに。私はゴッホに魅せられた。同級生に森本君という男の子がいて、彼はとても絵がうまかった。将来は画家を目指していた。彼と一緒に美術館巡りをする楽しみを覚えた。
私は残念なことに絵心がない。大人になってからグラフィックス業界に転じたが、絵が描けない、デザインができないということでとても苦労した。
中学2年の新年最初の授業の時、元・東京ムービーの美術教師は映画について語り始めた。題材は、正月映画として封切られた「カプリコン・1」だった。彼はこの映画を観た者は挙手をせよと言った。すでに映画ファンを自認していた私は手を挙げた。しかし、ここから悲劇が始まる。映画のストーリーをみんなに聞かせてやれと言うのだ。実は、私はこの映画を観ていなかった。結局、私はみんなの前で恥をかいてしまった。
しばらくして、2番館にこの映画が下りてきた。2本立てだったが、同時上映が何であるかは覚えていない。やっとの事で観た映画はとても面白かった。
NASAは人類最初の有人火星探査ロケットを打ち上げる。しかし、直前になり宇宙飛行士たちはロケットから降ろされる。そして砂漠の中にある施設に連れてこられるのだが、そこには火星のセットが組まれていた。
宇宙飛行士たちは、生命維持装置の不具合により有人飛行が出来ないこと、政治的な理由でプロジェクトを中止できないことを告げられる。そして、このセットで火星に行った芝居をすることを強要される。断ると、家族の安全は保証されない。
芝居は途中まではうまくいくが、大気圏に再突入する際に、宇宙船はクラッシュしてしまう。もはやこの世の人ではなくなった宇宙飛行士たちは、消されることを悟り脱出を試みる。
国家の威信のためには、人間の命などあってないに等しい。そんな恐ろしさを見せたこの映画は娯楽作品としても十分に楽しめる質の高いものに仕上がっている。
宇宙飛行士のひとりに、アメリカンフットボールで殿堂入りしたO.J.シンプソンがいる。彼はのちに元妻の殺害容疑で起訴され、カネの力で無罪の評決を買ったとされているが、俳優としての彼は結構好きだった。
音楽は、ジェリー・ゴールドスミス。スケールの大きな音楽で映画を盛り上げる。