メル・ブルックスのサイレント・ムービー Silent Movie
映画が音を持ったのは20世紀の初めだ。しかし、商業的に成功するには時間がかかった。
世界最初のトーキー作品は「ジャズ・シンガー」とされている。
当時は、映画が音を持つことに抵抗がある人が多かった。評論家や監督などは芸術性が失われると頑なに拒んだ。しかし、映画会社はトーキーはカネになると思い、積極的に導入しようとした。
そして「ジャズ・シンガー」は大ヒットした。
この作品の大ヒットを受けて、トーキーは瞬く間に世界を席巻した。
トーキー初期の撮影所の苦労話はMGMの「雨に唄えば」で興味深く描かれている。
しかし彼も、魔の手を伸ばすヒトラーと戦うために、トーキーという武器を手に入れた。そして作られたのが映画史上不朽の名作「独裁者」だ。
現代においては「アーティスト」がサイレント映画として製作された。
この映画ではトーキーの出現で仕事を失う名優が主人公として描かれた。
新しいテクノロジーは、人類に福音をもたらすが、その出現により不幸になる人が必ず出てくる。無常である。何の罪も無い人が、ある日突然お払い箱になる。
主演はメル・ブルックス自身と目玉のマーティ・フェルドマンの他、バート・レイノルズ、ジェームズ・カーン、アン・バンクロフト、ポール・ニューマン、ライザ・ミネリ、そしてパントマイムのマルセル・マルソーなどが彼ら自身の役で出演している。
作品そのものもサイレントで、セリフはたったの一言しかない。それを発したのは...。
とにかく明るく楽しい作品である。ペーソスはないし、教訓も得られないが、彼の作品を観てバカ笑いをすると明日もがんばろう、という気持ちになってくる。
メル・ブルックスの作家性も好きだが、彼自身も男性としてとても魅力的だ。このような人と一緒に暮らせば、きっと楽しいだろう。