みゆき野球教室

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ロケッティア The Rocketeer

ずいぶん昔のことだ。
急に海が見たくなり、電車に飛び乗った。地下のホームから西へ行く電車は、市街地を抜けると住宅街は路面を走る。電車の終点には、動物園がある。そこで降りて、ビーチを目指す。
 

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青い空、白い砂、雄大な海があると思っていた。しかし、待ち受けていたのは、曇り空、靴に入る細かい砂、荒れた海だった。寒かった。冬ではない。6月末か7月の頭だったはずだ。文豪マーク・トウェインに「私が過ごした最も寒い冬は、ある年のサンフランシスコの夏だった」と言わせたぐらいにこの街の夏は寒い。
 
この景色に打ちのめされた。とても虚しい気持ちになり、すぐに戻ることにした。
帰りの電車の中では、泣きたくなるほど悲しかった。この年、私は病気療養のため、生活の拠点をこの街に移した。
5年間有効のB-1、B-2ビザに6ヶ月の滞在許可のスタンプがパスポートには押してある。帰りの航空券は予約をいつでも入れることができるオープンチケット。三菱銀行で借りた莫大なジャパンマネー。自由を満喫するには、十分だった。しかし、いつまでたっても英語を覚えられず、友達もできずに鬱々と暮らしていた。それを思うと、悲しくて仕方がなかった。
 
街に戻ると、とにかく何かを食べたかった。ウールワースというショッピングセンターに入り、ペパロニのピザを買う。美味しかった。周りを見ると、楽しそうな観光客がたくさんいた。土曜日の午後だった。
 

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ピザだけでは足りなかったので、食料品店でいちご牛乳と暴力的に甘いドーナツを1ダース買って、週110ドルのボロアパートに帰った。
 
翌日からは、同じアパートの住人に積極的に話しかけ、友達もできて英語も少しだけ喋れるようになった。帰国間際に地元の人に道案内した時は気分が良かった。その英語力も、今ではすっかり無くなった。
 
私はあの年の土曜日を忘れない。そして、私を助けてくれたペパロニのピザの味も絶対に忘れない。たとえ自分の名前を忘れても。
 
この年は、映画をたくさん観に行った。映画が安い国だから、たくさん観ることができる。「ロケッティア」は、そのうちの1本だ。
 
別の映画を観に行った時、この映画の予告編を観て、興味を持って初日に出かけた。
映画館の前には、かなり長い行列ができていた。幸い、1回目の上映のチケットを買うことができ、入場した。
映画は、1938年のハリウッドが舞台。どんなストーリーだったかは、すっかり忘れた。しかし、劇中、ナチスが負けると場内は拍手喝采だった。こんな経験はしたことがなかった。とても気持ちのいい作品だった。
 
いい気分で外に出て、トロリーバスの乗っていると、別の映画館の前を通った。そして、まだ時間があるので、そこでも映画を観ようと思ってバスを降りた。この時観た「Ju Dou」という映画のお噂は、また別の機会に。