みゆき野球教室

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愛情物語 The Eddy Duchin Story

音楽の才能がないことが悔やまれる。
 
子供の頃、母親は私のためにエレクトーンを買うための積み立てをしていた。当時はまだ割賦販売が今ほど普及していなかったので、事前にある程度支払わないと高価な商品は買えなかった。その積み立ても満期に近い頃、母にエレクトーンなんていらない、習いに行くのは嫌だと駄々をこねた。
もし、あの時に親が準備してくれた道に乗っていればと後悔ばかりが募る。
 
高校生の頃、知人の好意で津軽三味線を教えてもらった。三橋美智也の直弟子で、三橋美智広という師匠だった。稽古が終わると、美味しいご飯を食べさせてくれた。でも、続かなかった。
クラシックギターを習いに行ったこともあった。モノにならなかった。
以来、音楽は諦めた。音楽だけではない。映画も、デザインも、クリエイティブなことは才能がないことを知った。
 
音楽の映画はよく観た。「グレン・ミラー物語」を始まりに、音楽家の伝記映画が好きだった。
その中に、「愛情物語」という大好きな作品がある。これは、エディ・デューチンという実在のピアニストの生涯と、愛、親子の関係を描いた傑作だ。
 
ピアニストを目指してニューヨークにやって来たエディは、人気のレストランの休憩中のピアニストとしてキャリアをスタートさせる。彼の華麗な演奏はたちまち人気を博し、地位と愛情を手に入れる。
やがて妻との間に新しい生命が芽生え、幸せの絶頂を迎えようとしていた。
しかし、ひとり息子のピーターが生まれた直後、妻は帰らぬ人となった。
落胆したエディは、ピーターを叔父夫婦に預け、巡業に出る。やがて戦争が始まると、海軍に志願して士官として太平洋戦線で戦うことになる。
戦争が終わり、ニューヨークに戻り、ピーターを引き取るが、幼い息子との間には修復しがたい溝ができていた。それでも、雷が激しい夜、二人は和解する。
ピーターには音楽の才能があり、エディはピアノを教える。やがて連弾できるまでに上達する。
今度こそ幸せを掴もうと思った矢先、エディに不幸が襲う。
 
この、親子の和解の場面は、当時すでに壊れていた私の家族のこととして受け止め、泣いた。私は両親とは和解できなかった。母に対しては、未だに激しい恨みの気持ちがある。
私は若い頃に、絶対自分の子供は持たないと決めた。親の愛情を受けずに育った私が子供に愛情をかけられないと思ったからだ。その思いは成就し、私は子供のできない身体になった。
 
劇中、今でも忘れられない大好きな場面がある。それは、戦闘で荒れ果てた国の焼け跡の街に置いてあるピアノをエディが弾く場面だ。演奏を始めると、土地の子供がやって来て、二人は一緒にピアノを弾く。あの子供はおそらくは孤児だろう。そして、エディの心にはひとり息子のピーターのことが思い出されていたんだと思う。
 
親、才能、健康、愛情、富、その他多くのものに恵まれない人生だった。
私は猛烈に哀しい。