みゆき野球教室

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どてらい男

大学院のMBAコースにあるカリスマ経営者が講師としてやってきた。
彼はコンビニエンスストアという業態を日本に輸入した人物で、その卓越した経営手腕で流通の頂点に上り詰めた。
ビジネスの世界でも、経営学の教室でも、彼が作り上げたビジネスモデルは大いに賞賛され、真似をする企業も多かった。
単品管理という手法は、ハーバード経営大学院でも教材になるくらい、画期的なものだった。
 
私は彼を見たとき、いいスーツを着ていると思った。そして立派なことを口にするが、とても冷たい人だという印象を強く持った。会話を交わしたわけでもないので、単なる印象である。
 
あれからずいぶんと時間が経った。今でもカリスマの輝きを持っているが、一方ではその悪行が伝えられることが多くなった。例えば、フランチャイズでオーナーになった人に対するいじめやブラックバイトの問題などだ。
しかし、これはマスコミで報じられることはない。彼を頂点とする巨大流通グループは、莫大な額の広告出稿を行っている。批判的な記事を書いて広告が止められれば、大企業であっても無傷ではいられない。
 
私は大学ではマーケティング、とりわけブランドについて深く研究し、学んだ。たくさんの経営理論や思想の中で私の心を捉えたのは、近江商人の経営哲学だった。その中でも最も有名なのは、「三方よし」という考えだ。
 
「三方よし」とは、「売り手よし、買い手よし、世間よし」のことをいう。つまり、売り手だけがいい思いをするのではなく、買ってくれた顧客にとっても、そして社会にとっても満足を与えないといけない。当然、働く人も大切にしないと三方よしは成立しない。
ところが世界を見渡してみると、売り手だけが巨万の富を得て、顧客軽視、労働者は物として扱い、社会的にも害悪という企業は多い。否、溢れている。そのような企業ほどエクセレントカンパニーとして評価されている。
 
近江商人の考えは、現代になりCSR(企業の社会的責任)という考えに昇華する。決して時代遅れの経営哲学ではない。
 
子供の頃、商人(あきんど)にあこがれたことがある。テレビドラマの「どてらい男(やつ)」の影響だ。
西郷輝彦演じる猛やんは大阪は立売堀(いたちぼり)の機械工具店の丁稚として社会に出た。彼は知恵と度胸でのし上がっていく。
 
関西テレビ制作のこのドラマはすでにマスターテープが残っていないそうだ。
映画にも舞台にもなったので、探してみようと思う。