みゆき野球教室

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大陸横断超特急 Silver Streak

今でこそ鉄道好きの女性は珍しくないが、私が鉄道が好きだった頃は珍しい存在だった。
鉄道マニアは、奇異な目で見られることが多いが、結構いい人が多い。上野駅で撮影に行った中学生の時、見知らぬ男の子に話しかけられ、彼が写した鉄道写真を見せてもらったことがある。
今は、鉄道マニアでルールを守らない不届きものが増えてきたが、どうかルールを守って鉄道愛を貫いてほしい。
 
「大陸横断超特急」は、私が映画ファンになったきっかけの作品だ。
浜村淳の映画紹介コーナーでこの映画の予告を見た。鉄道ファンとして観に行きたいと思った。
中学2年の5月だった。父に同伴してもらい、土曜日の最終回で観た。今でもよく覚えているのは土曜日の夕方のキラキラした空気。新しい何かが始まった気がした。
私はこの映画をきっかけに、鉄道ファンから映画ファンに宗旨替えをした。
 
LAからシカゴに向かうシルバー・ストリーク号の車内で、出版社勤務のジョージは、隣の個室のヒリーという美女と出会う。
シカゴまでの3日間、ジョージとヒリーは個室で愛し合う。そんな時、殺人事件に巻き込まれる。列車という密室で繰り広げられるサスペンスコメディ。
クライマックスは、機関士を失って暴走するシルバー・ストリーク号はシカゴ駅に突っ込む。ジョージとヒリーの運命はいかに?
 
シカゴ駅にシルバー・ストリーク号が突っ込むシーンはロッキード社の格納庫にセットを作り、実際のディーゼル機関車を使って撮影された。このシーンだけで50万ドルという巨費が投じられた。今ならCGで作られる場面。ホンモノだけが持つ迫力がある。
 
監督は「ある愛の詩」のアーサー・ヒラー。美しい主題曲は私が大好きなヘンリー・マンシーニが書いている。
主演はこれまた私が大好きなジーン・ワイルダー。そして、ジル・クレイバーグ。陽気なアフリカ系アメリカ人としてリチャード・プライヤーが出ている。「007 私を愛したスパイ」でジョーズ役を好演したリチャード・キールもこの映画で注目された。
 
映画が終わって、父とうどんを食べて、タクシーで帰ったことを覚えている。我が家が幸せだった最後の記憶だ。この映画の後、母は家を出た。父は夜遅くまで帰ってこなかった。
両親がいない寂しさを紛らわすため、私は映画にのめりこんだ。浴びるように映画を観た。誰もいない家にいるより、映画館の暗闇にいる時間が多くなった。
映画があれば寂しくはなかった。しかし、のちに映画と絶縁した時、その反動は一気に私を襲った。そして、心を病んだ。
 
もし、1977年の5月に戻れれば、両親の破局を食い止めることができるだろうか? それができれば、きっと私の人生は変わっていたと思うが、それは考えないことにしよう。