ミルク MILK
2009年の冬から春に変わる頃、私は久しぶりのサンフランシスコ滞在を楽しんでいた。久しぶりといっても、勝手知ったる土地。昔のように路線バス、ケーブルカー、ストリートカーを駆使して遊び回った。念願だったアップル本社に行ったのもこの年だった。
ある日、ローカルテレビを見ていたら、ニュースでアカデミー賞の受賞作、受賞者が発表された。中でも大きく取り上げられたのは、地元サンフランシスコが舞台となった「ミルク」だった。作品賞は逃したものの、主演男優賞と脚本賞を受賞したと報じている。映画の一場面が放映され、そこにはよく知っている風景が映し出されていた。
レトロなこの映画館は、何度も前を通っていたが、中に入ったことはなかった。
入場券を買って中に入る。
朝一番の上映のため、割引料金だった。いくらだったかは失念。
館内もレトロな雰囲気で、パイプオルガンがあった。
ちょうど、上映前のスライドが写し出されていた。
さて「ミルク」はこのカストロ・シアターの近くにある写真店の店主ハーヴィー・ミルクの最後の8年間を描いた。
ハーヴィーは、ゲイであることを告白して政治家になった初めてのアメリカ人だ。まだ同性愛が市民権を得ていないころだ。彼らが住むカストロ地区でも、ゲイは迫害を受け、生命を落とす人もいた。迫害されていたのは、ゲイだけではなかった。黒人やヒスパニック、低所得者や障害者など、弱い立場の人たちはアメリカという優勝劣敗の社会では常に虐げられていた。
ハーヴィーは、自分たちの権利獲得のために政治家になることを目指し、ついに議席を手に入れる。彼の功績で、今までは弱い立場だった人たちの権利が認められるようになった。
しかし、アメリカはキリスト教国だ。キリスト教は同性愛を禁止しているという神学を唱える人が多い。いつしか、生まれた時から権利と自由を持った恵まれた立場にいるアメリカ人に生命を狙われるようになった。そして1978年11月27日、市庁舎内で彼は殺害される。
犯人は同僚議員のダン・ホワイト。彼は逮捕・起訴されたがわずか禁固7年という軽い刑の評決を受けた。それに怒った市民たちがサンフランシスコの至る所で抗議し、ある人は暴動を起こした。
ハーヴィー・ミルクたちの地道な努力の結果、ゲイを始め、レズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダーは本来人間として当たり前に与えられている権利を獲得した。アメリカでは同性婚を憲法が認めた権利であるという最高裁判決があった。また、カトリックの教皇フランシスコもLBGTの人たちを教会で受け入れる姿勢を示した。
日本でもLBGTに関しては関心が高まっているが、実はそこにカネが流れるからという理由が主流で本来の理解には至っていない。また、トランスジェンダーの女性を一律に「オネエ」という枠でくくり面白がっている。
さて、映画の中で今観ているカストロ・シアターが写っていて不思議な感覚を覚えた。
帰国後、この映画を新宿バルト9で改めて観た。
LBGTの人たちは私たちの周りにいる。ある調査だと7.6%がLGBTだという。これは左利きの人、あるいは血液型がAB型の人と同じ割合だそうだ。多くのLBGTの人たちはカミングアウトしていない。彼らがカミングアウトしやすく、その後も生きやすい社会はきっと優しく素晴らしいものだと私は思う。