みゆき野球教室

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ニュー・シネマ・パラダイス Nuovo Cinema Paradiso

私が育った街には映画館があった。記憶では一館だけだが、歴史を調べてみると二館あったようだ。当時、日本中にあった邦画三本立ての映画館。夏休みになると、怪獣ものなど子供向けの映画がかかるのでよく行った。最後にその映画館に行ったのは、閉館間際の夏休みだった。子供向け映画二本に成人映画が一本という番組で、当然子供は成人映画の前に追い出された。

かつては娯楽の王様と言われた映画も、テレビを始めとする娯楽の多様化で存在価値を失い、映画館はどんどん潰れていった。
私が通ったその映画館も、時代の波には勝てずに、静かに世を去った。取り壊された映画館の跡地からは、たくさんの小銭が見つかったと当時のガキ大将は言っていたが、私はその恩恵に預かれなかった。
 
ニュー・シネマ・パラダイス」をやっとのことで観た。この映画が公開された時、私は映画とは絶縁状態だった。いい映画だとは聞いていたが、観る機会がなかった。おまけに、フジテレビによるプロモーションが嫌いだったので、意地でも観ないと決めていた。しかし、もっと早くこの作品に接していれば良かった。
 
トトと呼ばれた少年の一番の楽しみは、村で唯一の娯楽である映画を観ることだった。彼はスクリーンに映し出される映画のストーリーよりも、フィルムに刻まれた光と影が映写機を通して映し出されることに深い神秘を感じていた。
トトは、映写技師と仲良くなり、映写室に出入りするようになる。映写技師の仕事を見よう見まねで覚え、やがて仕事を任されるようになる。
しかし、運命は残酷な仕打ちをする。ある日、フィルムに引火して映画館は全焼、映写技師は光を失ってしまう。
 
映画館は再建され、トトは正式に映写技師として働くようになる。老いた映写技師は、映画の台詞を用いてトトに人生を教える。
そんなトトも青年になり、転校してきた裕福な美少女に恋をする。そして、その恋が実り、初めてのキス。ここから私の涙は止まらなくなった。
ドラマはさらに進むが、この先は皆さん自身の目で確かめてほしい。
 
さて、前述した通り、映画館は火事で焼けてしまうが、この場面は一番心が痛むシーンだった。やはり、幼い頃の映画館を喪失した記憶があるからだろう。
 
マカロニ・ウエスタンの音楽でおなじみのエンニオ・モリコーネが美しい主題曲を書いている。
トト役は、少年期、青年期、中年期で三人の俳優が演じているが、私は中年期を演じたジャック・ペランが好きだ。あまり台詞はないが、語らなくても伝えることができる演技力があるのがジャックのいいところ。
 
泣き所がたくさんある映画だが、決してそれだけではない。人生を、そして生きるということを肯定してくれる素晴らしい映画だ。映画と映画館を愛する全ての人に、監督のジュゼッペ・トルナトーレからのプレゼントだ。
 
今、私が住む街には映画館がある。映画館のある街に住めるのはとても恵まれているが、その映画館とはいい関係ではない。いつか、その映画館と和解する日は来るのだろうか。それは、わからない。