みゆき野球教室

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天国と地獄

台風が去って、秋がやってきた。あれほど暑かった夏は、あっけなく終わった。まだ8月だ。

この先、また暑くなるのだろうか?
今年は、夏の一時期を南国バンコクで過ごした。比較すると、日本の方が暑い。殺人的な暑さだ。
四季の中で一番犯罪が多いのは、いつだろう? データがないが、寒い時よりも暑い時の方が犯罪が多い気がする。
暑い時の犯罪を描いた映画はないものかと考えたら、一番にこの映画を思い出した。
 
「天国と地獄」は、黒澤明監督の作品だ。東海道新幹線が開業するより前のお話。まだ、戦争の傷跡が残り、時代そのものが貧しかった。それでも、貧富の差はあり、金持ちは冷房の効いた屋敷に住み、ビンボー人は冷房もなく衛生的とは言えない場所に住むことが多かった。
そんな中、金持ちに嫉妬して犯罪を犯すビンボー人がいてもおかしくない。特に、狂ったような暑さの中では。
 
製靴会社の重役、権藤はその地位を確かなものにするため、自社株を買い集めていた。そして、5,000万円を秘書に持たせて大阪へ遣り持ち株を決定的にしようとした。そんな時、息子を誘拐したという電話がかかる。しかし、誘拐されたのは息子ではなく、運転手の子供だった。
犯人は身代金を要求してきたが、手元にある5,000万円を使うと、自らの地位を失い破産する。といって、小さな命を見殺しに出来ない。究極の選択を迫られる権藤であったが、結局は身代金を払う道を選ぶ。
犯人は、現金を指定のカバンに入れて特急こだまに乗るように命じる。犯人は車内で接触してくるのか? それとも、どこかで身代金を落とせと言うのか? しかし、特急こだまは窓が開かない。
権藤は、身代金を持って特急こだまに乗る。刑事たちも変装して乗り込む。
子供は無事に解放されるのか? 権藤は破産してしまうのか?
 
この映画が作られた時、誘拐の罪はそれほど重くなかった。そしてこの映画に触発されて、数件の誘拐事件が続いた。国会ではこれを問題にし、刑法を改正した。
 
製靴会社の重役 権藤には黒澤組の常連、三船敏郎。刑事には、仲代達矢。この作品を境に、黒澤組の常連は三船から仲代にチェンジする。
 
当時、東京ー大阪間を約6時間半で結ぶ電車特急こだまが重要な舞台になっている。
それまでの優等列車は機関車が牽引する客車を使ったものが主流だったが、こだま以降は電車特急がその座を奪った。先にも書いたが、この電車は窓が開かない。その特性をうまく利用したトリックには脱帽ものだ。
 
映画だから、結局は犯人は捕まるのだが、その動機が冒頭に書いた通りのものだった。
やはり、暑さは人を狂わせる。
 
この作品は、私にとって最初の黒澤作品だ。そして、一番好きな作品でもある。
のちに、私は黒澤さんが会員の乗馬クラブで働くようになり、彼の孫をお世話することになる。
 
もう一度暑くなったら、この映画を久しぶりに観ようと思う。